【運用レポート】東京セキスイハイム株式会社様

昨年から運用して2年目になる東京セキスイハイム株式会社様からたっぷりと運用についてのレポートをいただきました!会社全体の「働き方改革」につながるヒントがあったり、メリットだけではなくデメリットや要望もあげていただき、また聴覚障害当事者の社員の方の生の声もいただきました。

ぜひお読み下さい。

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◆はじめに
・東京セキスイハイム本社→聴覚障害者5名が在籍
・UDトーク導入前のコミュニケーションツール
→筆談(ブギーボード)・音声・FMマイクツール・読唇術・メール・チャット等、聴覚障害者の希望・程度など個々によって様々。
→個々に応じた対応が主で、会社としての情報保障の取り組みは全くなかった。
→朝礼や会議ではFMマイクの使用や隣での筆談による要約筆記程度。
・PCを用いた要約筆記や音声認識などのソフト機器を試したが、期待していた程の情報量・効果は得られず、また情報提供者(聴者)へかかる負担も大きいことから使用断念。
・UDトークを試験的に導入し、法人プランを締結。

◆UDトーク導入における情報保障・提供者(聴者)側の変化
メリット
・筆記などではどうしても省略しがちな情報がリアルタイムで伝えることが可能。
・ほぼすべての発言をカバーできることから、こぼれ話や談笑内容など会場の雰囲気も補足修正しながら伝えることができ、障害者側も会議に「参加」意識を持ってもらえることができるようになった。
・要約筆記等ではどうしても担当者だけに大きな負担がかかりがちだが、UDトークではiPad・iPheneを持っている社員ならば誰でも修正作業に参加することが出来る為、負担軽減につながった。
・上記の参加のしやすさから、部署全員で情報保障への意識の高まり、協力し合う体制が出来つつある。
・接続等の準備が簡単なため、急な会議などにもすぐ対応することが出来る。大規模な催し時も準備依頼・外部の業者への説明が容易な点は大変助かっている。

デメリット・課題
・UDトークは修正作業が入って初めて内容が理解できるものであるが、パッと画面を見ると一見情報量が多く入っているように見え、「接続さえすればいい」と修正作業を放置しがちになる。便利な反面、聴者側の「本当に内容が伝わっているのか」という部分まで意識が立ちいかなくなることが多くなってきた。
・クロストーク時の対応が難しい。複数のiPadそれぞれにマイクを接続後、発言状態(タップして話す)をON状態にしたままにすると自分の発言だけでなく他の人の発言まで拾ってくるので2重、3重に表示されてしまう。マイクのON・OFFの意識付けが難しい。
・UDトーク使用にあたり推奨されている音声認識専用に作られたウェアウェアラブルBluetoothマイクが高額で、複数台の購入実現が難しい。
・音声認識以外の目的で活用が出来ていない(議事録替わりなど)。

◆UDトーク導入における障害者側の変化
メリット
・ほぼすべての発言をカバーできることから、こぼれ話や談笑内容など会場の雰囲気も補足修正しながら伝えてもらうことができ、障害者側も会議や朝礼に「参加」意識を持つことができるようになった。
・会議などへの参加の場が増え、以前よりコミュニケーションが円滑にとれている。
・昼食会などの歓送迎会での突然の挨拶にも対応することができる。

デメリット・課題
・慣れるに従い、周囲にはUDトークさえあればOKと勘違いされ、逆に音声が入っていない、誤認識などの時に対しても周囲の修正作業やフォローアップがなくそのまま進められてしまうことが多くなってきた。
・楽な反面、必要意識が薄れやすいので、引き続き情報保障についての理解・啓発活動は必要である。
(UDトークを導入して終わり、にならないようにしていかねばならない)

◆どういったシーンで活用しているか
・朝礼、説明会など全体集会での利用(利用風景写真を下部に記載しております。)
・聴覚障害者を交えた会議での利用、歓送迎会での歓談時

◆これからどういう風に使っていきたいか
・朝礼など発言者が予め決まっており、マイクの移動もあまりない催しはマイクをアンプにつなげてのUDトーク利用が可能で、認識精度も高く修正もしやすい。しかし会議では多人数での会話を小規模の部屋の中で行う為、アンプの使用が難しい。一番認識率のよい小型マイクを回しながら使用している状態なので、クロストーク時に適切な利用が出来ず、認識率も悪くなりがちです。誤認識が増えると修正もなかなか追いつかず、上手に使用できていると言えない状態です。性能のよいマイクが会議に参加する人数分あればよいのかもしれないが、コスト面で実現が厳しい。今後は会議でのUDトーク利用において効率の良い方法を模索しながら使用していきたい。

◆UDトークの可能性
・現時点では聴覚障害者の利用が際立っておりますが、将来的には一般会議での議事録自動作成やお客様とのコミュニケーションツール活用はもちろん、テレビ会議・電話での話し声も文字認識、または音声変換が出来れば国際的な業務ツールとして広い可能性を感じている。
・聴覚障害者の立場としても、電話業務を扱えるようになれば非常に革命的です。(電話相手の発言をリアルタイムで文字変換し、障害者側はそれを認識しながらチャット形式で返答を入力したものを音声変換して相手に伝える形です)
・なにより「聴覚障害」に特化したものでなく「すべての人」にとって便利なオールマイティーなツールとして広く活用して行って欲しい。

◆今後こうなればいいなと思うこと
・クロストーク時に対応が出来るように常時ONでも自分の発言だけを拾えるような機能。
例)設定で、誰かのマイクがONになったら他の人のマイクをOFFにするなど、同時に複数のマイクONを許可しない機能の実装。
・音声が入らない時、考えられる原因「機器接続不良」「早口注意!」などの案内表示。
・デスクに置いて常時周囲の音声を拾い文字化する機能、使用できる形態開発。

(聴覚障害者 社員Aさんの声)
これまでは会議や朝礼などは内容を筆談でリアルタイム、もしくは事後に教えてもらっておりました。しかし、それらの内容の理解度は当社の聴覚障害者従業員に数値化してもらったところ、リアルタイム時は全体の約50%にも満たない程度の理解度でした。事後に内容を要約筆記いただいたものを読むことで理解度は向上しますが、要約筆記者の技量によって情報量や完成度にばらつきがあること、内容が不明瞭な部分があっても要約筆記者に負担を強いているという負い目から質問せず、分からないことをそのままにする方も居りました。上記のような内容から、聴覚障害者従業員は情報格差の発生はもちろん、会議や朝礼で参加する「ふり」をするだけの方もいたと思います。

しかしUDトークを使用しての朝礼は多少の誤認識はありますが、文字修正担当者の設置など聴者の協力もあり、リアルタイムで細かいところまで何を話しているのか理解出来るようになりました。要約筆記では恐らく書かないような些細な話、言葉のニュアンスも知ることが出来て、大げさに言えば健常者の皆さんが「どっ」と一斉に笑ったときに聴覚障害者もこれまで感じていた「何故笑ったの?どのタイミングで笑ったの?」という疑問が解けるようになり、聴覚障害者にとっての朝礼・会議が立っているだけ、座っているだけの時間から、周りの健常者の皆さんと同じように発言者の言葉に一喜一憂しながら傾聴出来る、会議に参加できている状態になったのです。すなわち、情報保障の欠如から孤独感を感じることの多い聴覚障害者の会社業務・行事へ参加が実現し、仕事に対する姿勢や充実感の向上に繋げることができていると実感しております。

これまで会議・朝礼時は聴覚障害者の隣に立って内容を紙に走り書きしていたが、発言に追い付かずどうしても省いてしまう箇所がありました。しかしUDトークの利用でほぼすべての発言をカバーできて、誤認識部分の修正も修正担当者の複数配置により、これまで一人でやっていた業務を分担することで一人にかかる負担を大きく減少させながら聴覚障害者へより正確で迅速な情報保障の実現が出来ました。

参考写真①:朝礼時 聴覚障害者のUDトーク閲覧

参考写真②:司会者近くにアンプ設置

参考写真③:ろう者(奥の女性)・修正担当者(手前の男性)

参考写真④:修正担当者(手前の女性・右側の男性)

参考写真⑤:マイクとアンプを繋げた状態のUDトーク利用